学校の危機管理 第9回 ダメージコントロール 初期対応に全力で

 前回の第8回で事案や事故、重大事態を回避することについて述べましたが、どんなにハザードの消去を行っても、事故等の発生の確率は下げられても、事故や事件は発生することがあります。もし、事故や事件が発生したときの対応について、示したいと思います。

 危機管理の第1回で述べましたが、危機管理のフェーズは以下のとおりです。「予知・予防」「回避」発生後に「初期対応」「2次対応・再発防止」の順に段階を経由します。今回はダメージコントロールで最も重要な「初期対応」について述べます。

 ここでいう初期対応とは、事案発生後事故であれば対象者の病院への搬送等、関係者の安全確保や児童生徒の心のケアなどは含みません。あくまでも学校のダメージを少なくするということについてです。

 具体例として、報道やネットニュースなどで取り上げられるような児童・生徒の重大な学校事故が起きたことを想定します。ダメージコントロールの基本的な流れは次のようになります。

1 対策本部の設置

 まず、校長、教頭、担任、学年主任、学校教育課指導主事、内容によって、スクールカウンセラー、生徒指導主幹、養護教諭等を加えて編成します。その際、まず初めに、保護者や報道等からの問い合わせに直接電話等で対応する者を決めます。通常は教頭が対応します。

2 ポジションペーパーの作成

 ポジションペーパーは当該事案に関わる全ての人が事案について共通に理解しておくための最も基本的な情報を整理したものです。全ての対応はこのポジションペーパーを元になされなければなりません。校長は事案発生後できるだけ早くポジションペーパーの作成を教頭もしくは主幹教諭に命じ、作成されたものを直ちに対策本部で検討します。

 ポジションペーパーの内容は図のとおりです。事案によって若干の相違はあるかもしれませんが基本は上の図のようになります。

 ① 事案の概要

  事案の発生日時・時刻、発生した場所、被害者・加害者等、対象となる内容等いわゆる5W1Hに基づき、事実のみを簡潔に記載します。

 ② 経過

  学校は事案をどのようにして認知し、現状はどうなっているのかを明確に記載します。

 ③ 事案の発生の原因と背景

  原因と背景については、事案によっては初期対応の時点では不明確であることがあります。特にいじめ関連の重大事態などは詳細な調査が必要なことがあります。憶測ではなくこの時点ではっきりと言えることだけを記載することが大切です。時間が経過するにつれてこの項目は変更していく可能性はあります。

 ④ 今後の改善策・対応

  事案の発生原因や背景を鑑みて再発しない対策を明確に示します。その際、なぜ事案は起きたのか?、なぜ回避できなかったのか?、も示すこともあります。

 ⑤ 見解

  事案を防げなかったことへの謝罪、あらためて児童生徒の安全管理の責任者としての自覚を示します。

 保護者対応・報道対応・児童生徒への説明など初期対応のベースとなるペーパーです。できるだけ早く作成します。

3 想定問答集(Q&A)の作成

  保護者集会、報道対応、児童生徒への説明の際、統一した回答をしなければなりません。言っていることがまちまちでは、2次被害を引き起こしてしまいます。そのために、ポジションペーパーに基づいて、想定問答集を作成します。作成の仕方は様々ですが、対策本部のメンバーがそれぞれに本事案に関しての質問を列挙します。それを、集約し項目別に整理します。具体的には、excelを用いて質問(Q)それぞれに、番号を振りソートをかければ項目ごとに整理されます。そして、対策本部で詳細に検討し、1つの想定問答集として必要な関係者に配布します。Q&Aを作成することで、関係者の事案への共通理解がさらに深まることにもなります。さらに、2次被害を防ぐことにも繋がったり、対応策の改善にも繋がったりします。

4 保護者説明会の開催

 事案によっては保護者説明会を開催する必要があります。保護者に正確な情報を伝える意味でも開催することは大切です。間違った情報や変な噂が広がることを防ぐことにもなります。開催にあたってはPTAへの協力を仰ぎ、保護者の立場から発言してもらうことも重要です。そのためには日頃からPTAとの信頼関係を築いていることが重要です。

 事案によっては、スクールカウンセラーが心のケアについて説明することも重要です。

 説明会の最初は、校長の謝罪から始めます。事案の内容がどうあれ、学校で起きたことには変わりません。保護者の方に心配や不安をおかけしたということを謝罪します。決して言い逃れやいいわけと取られる挨拶は絶対に行ってはなりません。

5 報道対応の準備

 報道関係者からの問い合わせについては、基本的には校長が対応しても問題はありませんが、教育委員会の職員(課長、主任指導主事等)を窓口として対応するのが望ましいと思います。取材等が集中する場合は記者会見を行うことを考えます。事実の説明については保護者の意向を確認しておくことが必要です。

 開催にあたっては、説明者(校長、教育委員会)、司会、記録、会場整理、マイク補助等の役割分担を行い、会場の確保を行います。教育委員会の職員にも同席してもらいます。会場は前後に出入り口があり、主催者側の方に出入り口を1つ設けます。ある程度の時間を示しますが、真摯な態度で対応します。説明者の挨拶や説明の原稿をあらかじめ用意しておきます。また、作成したQ&Aは出席者は頭に入れて望みましょう。

 今回は危機管理におけるダメージコントロールの初期対応について述べましたが、初期対応を間違えたり遅くなったりするとダメージはどんどん大きくなります。先生たちの精神的なダメージや児童生徒の不安を増大させたりする前に、そして2次被害を引き起こす前に、冷静に素早く的確な初期対応を行うことが重要です。

 

 

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